2015年7月14日火曜日

YANS合宿まであと2ヶ月

NLP若手の会シンポジウムまで2ヶ月を切りました。 ちょっと遅れていますが、論文募集も始まります。 その前にいま考えていることを書いておこうと思いました。

「若手の会の委員長に推薦されたので引き受けてくれないか」ということを打診されたのが昨年のシンポジウムの前でした。 特に今の会社に転職してからもう何年も論文も書いてないし、何で私がとも思ったのですが、それでも自分なりの方法で自然言語処理という技術領域に貢献したい気持ちと、こうした会の責任者になるという経験は少なくともいま逃したら当面ないだろうし、幾つか挑戦してみようという気持ちで引き受けました。

ところでNLP若手の会とは何かというと、私がちょうど修士学生だったときに、当時の助教くらいの年代(当時30歳くらい、今ちょうど准教授くらいの先生)の先生が作った会議です。 完成度の高さよりも新規なアイデアが、論文よりもその場の議論を重視している様に見えました。 次の年の国際会議に通すためのアイデアを醸成して集中的に議論することが当初の目標だったというふうに聞いています。 特に新鮮だったのは、学生ではなく発表者がほとんど助教の先生で、まだどこにも発表していない、実験もほとんどしていない、アイデアベースの議論が白熱していて、衝撃を受けたことを覚えています。

さて、委員長を引き受けてから考えていたのは、何に貢献できるのかということでした。 IBM時代から、それなりに学会というものが何のために必要なのかということを考えていました。 最近はNL研やNLCの参加者が少ないという話を聞きますし、Twitter上でディスカッションをするという取り組みも見たことがあります。 それでも、顔を直接突き合せないとできないことがあるはずだということを念頭に置きながら企画を練っております。 また、加えて自分なりにもっているいくつかの問題意識を解消することを目標として設定していました。

企業との関係

一番考えていたのは企業の参加者が少ないとうことです。 企業系研究所の人はもちろんいますが、一般の製品開発に携わるような人がほとんど来ていない。 しかし、私や私の会社に質問にいらっしゃるお客様はたくさんいます。

最近、感動して周りに言っているのがアナ雪の話でした。 これはSIGGRAPH 2013でDisney researchが発表した雪のシミュレーションの研究発表の動画です。

何かわかりますよね。 アナと雪の女王に使われたCGを生み出している技術なんですね。 最先端の研究発表が、そのまま製品(ここでは作品)になって、世の中の価値になっている(もちろんこの技術だけが重要だと思ってないです)。 大きな産業につながっている。 我々の会社は、「最先端の技術を最短路で届ける」ことを標榜していますから、もっと技術が世の中に出て欲しい。 SIGGRAPHは昔から企業の人が多数参加していて、産業との大きな連携がとれているというようなお話をよく聞きます。 そうしたことが、この業界にも起こって欲しいという風に思っています。 YANSは初めての人でも参加しやすいですから、ここをステップに言語処理学会などの他の会議への参加にはずみがつくとよいです。

学生と就職の関係

学会というよりは、大学の構造全般に関わる問題で度々話題に出ることです。 就職したい学生は、研究より就活に時間をさきたい。 研究して欲しい先生は、就活より研究に時間をさいて欲しい。 優秀な学生をとりたい企業は、効率的に学生にアプローチしたいので、大規模な就活イベントを開く。 全員の言い分は分かりますし、何より誰も得していない最悪の状態に見えます。

私は学会発表が就活に繋がればいいと思っています。 就職したい学生は、学会発表で頑張れば就職先が見つかる。 研究して欲しい先生は、就活のために学生が研究してくれるようになる。 優秀な学生ととりたい企業は、学会に行けば技術レベルや背後の思想含めて優秀な学生とコンタクトが取れる。 全員幸せです。 YANSは発表よりも、その場の議論を重視します。 特に泊まりこみの合宿では、部屋もごちゃまぜで、背後にある思想まで含めて多様な議論ができます。 こうした機会を活かしたいです。

本当は博士進学して欲しい先生が多いのも理解していますが、就職先の間口が広がらないことには研究に邁進する学生の数も増えないと思っています。 そして、恵まれたことに情報系学問は大学で学んだ技術を産業に役立てられる可能性を持っています。

発表形式と技術革新

今ある発表形式は本当に最適なのか、ということを考えています。 その昔、パワーポイントはありませんでした。 さらにその前はOHPもありませんでした。 発表の方法というのは、技術革新によって変わり得るわけですよね。 新しい技術があるのなら、それを試してみたい。 先日、Twitter上で公開討論をしている研究者の方を見かけました(どなたか忘れてしましました)。 こういうやり方もあるのかと、大変感心しました。

新しければ良いわけではないよね、という意見はごもっともです。わかります。 しかし、悪いかどうかは試してから判断すべきですし、それが研究者的な態度だと思っています。 ましてや我々は「若手」を標榜しているのに、我々がリスクを犯して試さないことに、例えば言語処理学会の年次大会で突然導入するなんてありえないでしょう。 我々はモルモットのように新しい取り組みを試してみる、それが期待される効果を本当にあげられるのかの知見を貯める、もし効果があればより大きな会議で利用していただく、そういう位置づけで良いと思っています。

エンジニアリング力の重要性

自然言語処理界隈は、大変失礼かと思いますが他の情報系の業界に比べるとエンジニアリング力が低いと感じています。 ChasenやJumanやMeCabといった優れたソフトウェアの出現が大きく研究を進めた側面は否めません。 昨今の国際会議では、プログラムの公開を重視する面も出てきています。 エンジニアリングだけが大事だとは思いませんが、バランスの問題です。 3人の中でこのテーマを選ぶべきは(エンジニアである)自分だろうと思って今年のテーマとして設定してみました。 来年以降は、また別のテーマになるでしょう。

今の職場になってから、OSSに携わる機会が増えましたし、この活動を通じて多くのことを学びました。 学生のうちはソフトウエアの公開を自由に行えますし、今は公開のコストが非常に低いですから、学生のうちからそうした活動を行うこともできるでしょう(すでに沢山活動している人もいらっしゃいます)。 今回はハッと思いついて、知り合いの有名OSSのコミッターに招待講演を頼むことができました。 研究者として活動しながら、OSSにどうやって関わるのかといったところを聞くことができるでしょう。

会議運営の効率化

業務の効率化というのは、あげようと思えば上がるし、そのためのノウハウだとかテクニックだとかは巷に無限に書籍があります。 企業で仕事をしていれば、どうやったら業務効率をあげられるかという話や工夫をずっと試し続けていますから、そうしたノウハウを展開できるのではないかと思ってました。

根本的に1年毎に運営者が変わるということ自体が、効率の悪い一番の原因だとは思っています。 しかし、ボランティアでやる以上、何年も継続して同一人物がやるわけには行きません。 いかにして文書化して、属人性を排除し、不要な思考を削ぎ落とし、本当に必要な議論に時間を割けるかだと思ってます。 1年でどうにかなるものではないですが、小さなところからでも取り組めたら良いなとおもいます。


以上のようなことは目標ですから、期待したほどの効果が上がるかどうかはわかりません。 そんなの効果はないよ、と思われることもたくさんあると思います。 それでも自分なりに持っている問題意識ですから、ここは1つTryしなければならない。 特に私は企業側とのコネクションは他の委員長よりはあると思っているので、上記の目標を踏まえてスポンサー制度をしっかり定着させるのが大きな課題です。 さて、あと2ヶ月ですね。 ボランティアで運営される以上、参加者と主催者のスポンサーなど、関係者全てにとって何かしらの価値が有ること願います。

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